私は禁断の果実を食べた研究者

自分は禁断の果実を食べた研究者なのだ。禁断の果実を食べたせいで、現在もうつ病に苦しんでいるが、禁断の果実を食べなければ、博士号を取ることも、アメリカでポスドクをすることもなかったかもしれない。

自分は、大学院時代の過酷な研究生活で鬱になったが、その過酷な道を選んだのは紛れもなく自分であった。小さい頃から研究者になりたかった自分だったが、自分の学力で入れた地方の大学では、そこまで大きな研究体制は敷かれていなかった。

ただ、その大学には唯一、優れた業績をあげている研究室があった。そこの研究室に入れば、奨学金が免除されたり、学振が取れたりするかもしれないという噂があった。

自分の実家の家計を考えた時に、そして将来研究者になるということを考えた時に、自分はそこの研究室で博士課程に進むという選択肢以外は考えられなかった。結果として、学振こそ取れなかったものの、奨学金の返済は大幅に免除されることとなった。

ただ、その代償として、ハードな生活、対人関係にもまれて、自分はうつ病になった。その寛解には、大学院在籍時と同じかそれ以上の月日が必要だった。

今でも、もしあの研究室に入らなければ、うつ病でこんなに苦しむこともなかったのにと思う。でも、あの研究室に入らなければ、自分は金銭的にも博士課程に進んでいなかっただろうし、博士課程に進まなければ、アメリカに留学することもなかった。

自分は、身の丈以上のことをしようとしたのだ。素直に自分の分に従っていれば、普通に生きていれば、もしかしたらうつ病にはなっていなかったかもしれない。身の丈以上のものを望む、強い欲望が故に、自分は禁断の果実を食べ、一時的に力を手に入れ、博士号と留学という宝を手にしたのだ。でも、その果実には残念ながら毒があった。

何か、もっと別の道があったのかなぁと、ふとした時にこの10年を振り返るけど、でも振り返っても、今来た道以外は道がなかったようにも思う。

時間が経って、ようやく果実の毒も体から抜けてきた。禁断の果実を手にする必要がなくなったこの先、自分はどういう道を歩むのだろう。

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