引っ越しの時、食べ物を押し付けようとしてくるのなんなん?

アメリカに研究留学していると、ひっきりなしに日本人が来たり帰ったりしていて、引っ越しを手伝う機会が多い。

引っ越しの際に、家具などを安く他人に譲り渡すことをムービングセール(moving sale)といい、NIHの日本人はよく家事のやりとりをしている。先日会った友人は、一度日本に帰国するときに友人に売ったソファーを、再度アメリカに来た時に、その友人から譲り受けたと言っていた。

かくいう自分も、今家にある家具のほとんどは、前任者から総額150ドルで譲ってもらった。かなり安いが、処分する方も家具の運搬を手伝ってもらったりと、手間が省けるから、かなり安くてもいいから、知人に譲ってしまいたいというのが心情だ。いわゆるwin-winな関係というやつだろう。

家具だけでなく、その他諸々のものもmoving saleの際は譲り受けるのだが、その際に少し困るのが余った食料だ。

いくら帰国の日が決まっていても、それまでになかなか食料というのは胃袋の中に片付けられるものではない。今まで自分が引っ越しを手伝ってきた人も大抵、前日まで冷蔵庫に大量の食材が余っていた。

そして、どういうわけか、多くの人は、その余った食材を人に譲ろうとする。

日本にいた時からしばしばこういう経験があった。一番古い記憶は、ほとんど話したことのない、アパートの隣人が、引っ越しの際に調味料やお酒を大量に渡してきたことだ。その隣人は、毎晩彼女とのセックスで、喘ぎ声を自分の部屋に届けてきて、自分に性の苦しみを植え付けた張本人なのであるが、当時大学2回生だった自分は、喜んでその調味料を受け入れた。大学2回生だったし、お金もなかったし、その時はそれが嬉しかったのだ。しかし、研究生活がすぐに始まり、自炊することが全くできなくなり、博士課程に入ってから、自分はその譲り受けた調味料やお酒を全て、トイレに捨てることになるのだった。

余談だが、このエピソードを数少ない高校の友人に「セックスの音で迷惑していたけど、調味料くれていい人でもあった。」と伝えた際、その友人から「モノくれたら何でもええ人になんねんな」と返答され、その返答がなぜか妙に不快で腹が立ち、その後、その友人とは音信不通になってしまった。

2回目は大学院時代の先輩で、その先輩は自分に対して常々嫌味ったらしいことを言ってきて、大っ嫌いだったのだが、なぜかその先輩は、賞味期限間際のものを自分に譲ってくるという習慣があった。そして、その先輩がラボを離れて、引っ越す際も、自分は「いらない」と言っているのに、「まあまあ」とか言って、食べきれなかった食材を自分に押し付けてきた。それらは絶対に自分が口にしないものだったので、その先輩が旅立った翌日に、自分は研究室のゴミ箱に、それらの食材を全て捨てた。

まあ、そんなのは全て昔々の記憶なのだが、アメリカに来てからも、引越しのたびに、自分はほとんど食べない食材を譲り受ける。大学の頃と違い、アメリカでの日本人付き合いは良好なのだが、それでも、引っ越しの際は、なんとも言えない、苦い思いをすることになる。

中には実際に食べるものもあるのだが、ほとんど食べないし、人によっては賞味期限を確認せずに、賞味期限が切れたものを渡してくることもあった。流石にそれは腹が立った。

今日改めて、自分はそれらの食べない食材をまとめて全て捨てた。食料を捨てるという行為にもすっかりと慣れきってしまった。

「食べ物を捨てる」という行為には、少なからず背徳感があると思う。それはわかる。だからこそ彼らも「捨てる」という行為を選ばずに、誰かに譲るという選択肢を取るのだろう。

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一時期の自分は「自分が舐められてるから、いらない食べ物を押し付けられるんだ」と思っていたけど、もしかしたらそういう側面もあるかもしれないけど、でも多分それは思い過ごしで、いろんな人にアンケートを取ると、食べ物を押し付けられたというエピソードはしばしば聞く。多分、自分だけでなくて、今現在も世界各国で同様のことは起こっている。

自分がなぜこんなにも嫌に感じるかというと、「食べ物を他人に押し付けるという行為」は、「食べ物を捨てるという背徳感を他人に背をわせて、自分がその罪から逃れる」からに他ならないであろう。いくら慣れたとはいえ、今でも食べ物を捨てるという行為には背徳感があるし、それに慣れきってしまうという状況も決していいものではないと思う。

次似たような機会があれば、頑張って断ってみようかしら。できれば食料を捨てるという背徳感を、他者に押し付けず、自分自身で心の底から感じて、己で反省してくれ。

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