日本にいた頃「NIHのポスドクの給料はとてもいい!」という噂を聞いてアメリカに来た。そして留学4年目、確かに給料そのものはいいが、一方で物価の高さとインフレにより、結局のところそんなに儲からないということにも気づき始める。
つい最近、確定申告もあったので、2020年度の黒字額をようやく計算できる。コロナ禍で海外留学する人も減少しているだろうが、今後留学する人のための参考資料になればいいなと思う。
2020年の全収入は58,000ドル
NIHポスドク4年目の全収入は約58,000ドルであった。本当は下一桁まで端数があるが、めんどくさいので下三桁は0にしてある。NIHでは基本的に、ポスドクの給料が毎年、数千ドル上がるシステムになっている。ちなみに「毎年いくらくらい上がるか?」ということに関しては、NIH全体で統一されているわけではなく、NIHの部署(Institute)ごとに異なる。自分が所属する部署は、少し貧しいところなので、3,000ドル程度の上昇なのだが、一番お金のある部署では、5,000~7,000ドル近く上昇するらしい(友人談)。恐ろしや。
参考までに自分の給料の上昇を記録すると、こんな感じである。
- 1年目 $49,000
- 2年目 $52,000
- 3年目 $55,000
- 4年目 $62,000
3年目から4年目で、どうもインフレがあったらしく、極端に給料が上がったが、これは珍しいケースだ。
確かに、日本でポスドクをするよりは、高い給料をもらっていると言えるだろう。しかし、実際のところ、そんなに貯金は増えていなかったりする。
そこで、次に2020年の支出を計算して、黒字を算出してみよう。
2020年の税金は約10,000ドル!
まず、税金を計算しなくてはならない。
先日確定申告があり、ようやく2020年の納税額が決定した。日本では、会社などに勤めていると、年末調整があり、基本的に確定申告をする必要がないが、アメリカではみんな確定申告をしているようだ。自分も例に漏れない。
アメリカの税金も日本と同様、所得税と地方税が存在する。日本の所得税に該当するものが、連邦税(Federal tax)と呼ばれ、地方税に該当するものがメリーランド州税とローカル税の合算されたものになる。メリーランド州税はメリーランド州に収め、ローカル税は郡(county)に納める。自分の場合、住んでいるMontgomery郡にローカル税を納める事になる。2020年の連邦税と地方税はそれぞれ
- 連邦税5800ドル
- 地方税4100ドル (メリーランド税2300ドル、モンゴメリー税1700ドル)
であった。日本と比較しても、だいぶ高いと思う。
ちなみに、アメリカには国民皆保険制度が浸透しておらず、医療保険は各自、加入しなくてはならない。NIHでは、少なくとも自分の部署では、給料とは別にNIH側が毎月高額の保険料を払ってくれているようだ。よって給料から医療保険が引かれることはない。
しかし、歯科保険と眼科保険は、この医療保険には含まれていないため(なんでやねん!)、入りたければ、各自保険会社と契約しなければならない。日本人研究者で、律儀に歯科保険を契約している自分は少数派である。アメリカに研究留学していて、一度も歯医者に通ったことがない、という人の方が多い。
また、年金に関しては、一般的なNIHポスドク(つまり、J1ビザでFellowshipをもらっている人)はアメリカの年金には加入できない。なので、自分は日本の国民年金を任意加入して、2年に一度、2年前納をしている。30歳を超えてもいまだに厚生年金に加入したことがないのである。
残り48,000ドルの内訳
そんなわけで、全収入は58,000ドルだが、実際にハンドリングできる額は1万ドルマイナスの48,000ドルである。
では次に月々の支出をみてみる。
自分の2020年の年間支出は39,000ドルであった。ひと月あたり3250ドルになる。結構使っている。
アメリカでは家賃が高いことが有名だが、自分の住んでいる地域も御多分に洩れず、1人暮らし用のアパートで、光熱費込みで、毎月1600ドルも払っている。これでもこの地域では安い方のアパートなのだ。
つまり、家賃のお金を引いた1600ドルで毎月やりくりしている事になる。
必要ないが、月毎の支出も乗せておく。2月は車の保険料の支払いがあるので($1700ドル)だいぶ高くなっている。一番安い月で4月の$2600である。この時は自炊でも頑張ったのだろうか?
- 1月 $3,604
- 2月 $4,591
- 3月 $3,074
- 4月 $2,596
- 5月 $2,777
- 6月 $2,877
- 7月 $3,567
- 8月 $2,792
- 9月 $2,857
- 10月 $4059
- 11月 $2,936
- 12月 $3,244
よって、年間の黒字は48,000-39,000で9000ドルであった。ちなみにこれはアメリカのコロナ給付金なしの額である。今年はコロナで一時帰国することができなかったが、例年、年末年始は日本に帰るので、今年はまだ貯金できた方なのである。
自分は独身1人暮らしで、生活様式はめっちゃ節約するわけでもないけど、かといってめっちゃ浪費するわけでもない、と言ったところだろう。食事の半分くらいは、外食またはインスタント食で、半分くらい自炊する感じだ。経験的にだが、一人暮らしで食費をケチろうとすると、生活の質が下がる、というか自炊に時間と体力を費やす分、仕事(研究)の時間が少なくなってしまうので、あまりしようとは思わない。一度頑張って外食を減らしたことがあったのだが、食費って頑張って削ってもせいぜい月100~200ドルくらいで、労力の割りに、あまり節約にならないということを学習したのだ。
NIHにポスドクとして留学した場合、最も効率的な節約方法は、ルームシェア方式の物件に住むことである。NIHの独身ポスドクは、結構ルームシェアをしており、その場合、家賃が1000ドル近辺まで落ち込む。これだけで、年間7200ドルも黒字が増える。なので、ルームシェアでOKならば、是非ともそちらを勧めたい。
そんなわけで、年間60,000ドル近く給料をもらっても、貯金できる金額は1万ドル弱なのだ。日本にいた時は給料が400万円そこらだったが、今以上に貯金できていた。なんせ、家賃が1/3程度だし、食費も安い。
アメリカでは、自炊した場合の食費は日本と変わらないか、むしろ安いくらいだが、外食は日本の倍以上かかる。夕食をレストランで食べた場合、大体チップ込みで20ドル近くかかってしまう。自分はもうこの感覚に慣れてしまったが、やはり高いだろう。
そんなわけで、アメリカでポスドクをすると、確かに給料そのものは日本よりもいいが、実際の黒字は、多くの場合日本以下になってしまう、というのが自分の見解である。