前回の記事でコロナで一躍有名なPCRの一般的な手順を解説しました。
今回は余談になるのですが、RT-PCRという用語のややこしさについて解説します。研究者向けのマニアックな内容です。
コロナの検出のために使われているPCRは逆転写PCR(RT-PCR)と定量PCR(qPCR)の二つが組み合わさったものになります。コロナウイルスはRNAウイルスなのでまず、コロナのRNAをDNAに変換する必要があります。これはPCRという手法が原則的にDNAからDNAを増幅させるための手法で、RNAからDNAを増やすことができないからです。そこで使用されるのが逆転写PCR(RT-PCR)というRNAをDNAに変換させるための特殊なPCRです。これによりウイルスRNAが人工的にDNAに変換されるため、その後の定量PCRが可能となるのです。
で、この定量PCRはリアルタイムPCR(Real-time PCR)とも呼ばれたりするのですよね。どういうことかというと、DNAが増幅していく様子をリアルタイムで観察できるということなのですが、(世の中には漫画の更新以外もリアルタイムで追いたい輩がいるのです)、これ時折間違えてRT-PCRと訳されてしまったりするのです。本来は逆転写PCRがRT-PCRなんですね(これは逆転写の英語がReverse TranscriptionなのでRTになるわけですが)。そして、RT-PCRってReal-time PCRと組み合わせられることが多くて、Real-time RT-PCRというめちゃくちゃややこしい言い方をされたりします。どっちも頭文字がRTになりますからね。
これ、本当にややこしくて、研究始めたばかりの頃は本当にごっちゃになりました。調べてみると英語版のWikipediaにはそのことが言及されていますね。”The acronym “RT-PCR” commonly denotes reverse transcription polymerase chain reaction and not real-time PCR, but not all authors adhere to this convention(RT-PCRは一般的には逆転写PCRのことを指し、リアルタイムのことではないが全ての著者がこの慣例に従っているわけではない)Real-time polymerase chain reaction“.そのせいか、最近はリアルタイムPCRのことは定量PCR(qPCR, qはquantitative)と書かれることが多いと思います。
Real-time RT-PCRも個人的には少しおかしいんですよね。ていうのは先に行われるのは逆転写(RT)ですから。RT real-time PCRと書く方が正しいんですけど、なんとなくこれだと字面が悪いですね。
最近はRT-qPCRと書くのが一番多いでしょうか。字面的にはこれがコンパクトでいいですよね。個人的にはReal-timeと言い出した奴がややこしさを生み出したと思っているので、Real-timeを引っ込めて、それをqの一文字で表すのが一番誤解を招かない気がします。
ただ、Real-time側の意見を勝手に想像しますけど、qPCRって普通のPCRにも定量性はあるんですよね。そこがReal-time側がごねる部分で「qPCRって定量性のないPCRなんてないわい!」という声が聞こえてきそうです。やっぱりReal-timeと名付けたのはPCR反応でのDNAの増幅をリアルタイムで観察することができるからですからね。
もうここまできたら英語が悪いですね。Real-timeとReverse transcriptionの頭文字がどちらもRTになってしまう運命を呪いましょう。