NIHの峰さんが共同で書いた、新型コロナの本を読んだ。自分は峰さんとは面識はないのだが、友人づてに優しい、いい人だと聞く。実際、本を読んでみても、またYoutubeなどに出演されている姿を見ても、サイエンスに対して誠実である姿勢が感じられる。
新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実 峰 宗太郎 山中 浩之
新型コロナの蔓延の影響を受けていない人は少ないだろう。実際、自分も仕事面においてもプライベート面においても多大な影響を受けている。そうなると必然的にコロナウイルスに対する興味もわくが、ネットやテレビのニュースを見ても言っていることがバラバラだったりして、何が正しいのかわからない。
けれども、日常は進み、新型コロナ以前はなかったような選択の岐路に立たされる機会が増えて、その度にストレスを感じる。無料PCR検査は受けるべきか否か、休日に友人と会うのはありか否か、1人で遊びに行くのはありか否か。
そういう迷いが日常において非常に多いため、一度、本を読んで勉強してみようと思った。経験的にだが、何かを理解しようと思うときは、ネットで断片的な情報を集めるよりも、体系的にまとめられた本を一冊読んだほうがいい。
今回、この本を読んで感じたことは、著者が言うように「神風は吹かない」ということだ。残念ながら「これ一本でお嫁にいけちゃう!」みたいに「これさえしておけば大丈夫」という方法論は新型コロナには存在しなそうだ。
また、これはコロナとは関係ないが、峰さんが研究者として感じる「最近の研究事情」に関して、共感できる部分があった。それは「簡単な研究課題ばかりが解決され続け、難しい課題は放置され続ける」ということだ。
研究というものが、ビジネスみたいに「この予算で何年以内に課題をクリアする」というものになってしまっているため、どうしてもプロジェクトに取り組み前に「解決可能である」と判断されるものだけが着手される。そして、研究者としての任期は5年程度であるものが多い。実際、NIHのポスドクとしての任期も基本的には最大5年だ(例外あり)。だから「5年以内に論文として成立する(と考えられる)比較的簡単な課題」だけが着手されていっているのだ。そんな姿勢ではブレイクスルーはなかなか起こらない。
例えばフェルマーの最終定理なんてフェルマーの死後、330年後に証明されているのだ。もし数学者が現代の予算システムに従って仕事をしていたら、フェルマー定理は未だに解明されていなかったのではないかと思う。「フェルマー定理を証明するので基盤Sください」みたいな申請書を書いても「無理だろう」と審査員に落とされてしまう。
現代の研究状況に対する文句はこれくらいにしておこう。もう一つ印象的だったのは「無症状者へのPCR検査拡大」についてだ。
現在NIHでは希望者全員が「無症状者PCR」を受けることができる。そして、自分は受けていないのだが、親しい友人に受けるように勧められており、そのことに若干のストレスを感じてしまう。
確かに友人の言っていることは、正しいように聞こえられるのだ。「無症状でも他人に感染させる可能性があるから、PCR検査を受ける」という主張に反論するのは難しかった。
自分がこの本を読む前に感じていたことは「希望者全員はできるかもしれないが、NIHの従業員全員は絶対にキャパシティー的に無理」「PCR検査希望者が一箇所に集まるほうが感染しそう」という「PCR拡大が集団的な感染予防に効果があるのか?」という点が一つ。そしてもう一つは「予約して、別の建物まで往復30分くらい歩いて(NIHは広い)、痛いことされるて、検査結果を次の日まで待つのがめんどくさい」という個人的な理由である。
今回、峰さんの本に書かれていたのは「PCR検査は陽性者の断定」のために行われるのが第一の目的と言うことだっだ。つまり、検査前診断が非常に大事だと。と言うのも、新型コロナのPCR検査は偽陰性が30%くらいあるらしいのだ。感染の時期によって、またサンプルの接種場所によって、陽性者を「陰性」としてしまうことが3割程度の確率で起こってしまう。実際にミキの昴生さんは発熱当初に陰性と判断されたが、後日陽性になった。
だから「検査で陰性だった」からと言って、陽性でないとは言い切れないのだ。そうすると「自分で検査前診断を行って、症状がなければ、その中で許される行動をする」以外はできることがないように感じられる。実際にNIHのPCR検査も診断が出るのは次の日以降なのだ。PCR検査を受けた後に陽性になって、その後陰性の通知が届く、なんてことも十分に考えられる。「安心」を買うためのビジネスとして「PCR検査拡大」は成立するかもしれないが、それは感染を抑えるためのものとは言いづらい。
でも、自分が一番嫌なのは「PCR検査を受ける受けない」でせっかくの友達と喧嘩になってしまうことなのだ。コロナさえなければ、友達と揉めなくてすむのに。PCR検査を勧められるから、その友人とも会いづらくなってしまっている。そんなナイーブなアラサー男性もこの世には存在している。